【toeic受験記】はじめてtoeicを受けてきました。

時計は16:30を指している。某大学の教室で40人が必死でマークシートに鉛筆を走らせている。その中で鉛筆を持ったままぼーっとしている男がいた。私だ。

toeicの試験は時間との戦いと言われている。現に私以外の受験者はみんな高梨沙羅のような前傾姿勢で問題を解いていた。試験終了まで残り30分。マークシートを全て記入したのは会場で私だけのようだった。これから試験終了まで30分。途中退室を許されていない試験でどのように時間を潰そうか…。

 

なぜこのような状況になってしまったのか。

学生時代、私はそれなりに勉強ができた。というのも小学校〜中学校の頃は学校から帰ってきてから夕食を食べるまで約1時間、母の指導で平日は毎日勉強をしていた。そのおかげか小学校では「頭がいい」と言われ、中学に入っても学年10位くらいをキープしていた。しかし英語だけはどうしても苦手だった。成績表をみると英語のグラフだけがくんと下がっているのが普通になっていった。「どうせ英語なんて使わないしなぁ」そう思いながら学生時代を過ごしたものだ。

社会人になるころにはインターネットで気軽に国境を越える世の中になり、英語のスキルは世間でも重要なものになっていた。さらにプログラマである私は、コーディングで問題が起きるとインターネットで解決方法を探すのが普通だ。問題が極端で珍しいほど英語表記のサイトがヒットした。英語を理解するということはそれだけ情報のINPUT先が増えるというのは自明の理だった。

 

転機はつい一ヶ月前。とあるyoutuberを見た時だ。

「英語が出来ないと選択肢が著しく狭まる」「中高と英語してきたのに出来ないのはどうなのか?」と熱弁している。これには私も思うところがあった。

さらに「toeicを受ける時に勉強してからというやつがいる。そもそも一回受験してみないと今の自分がわからないんだから勉強の方法も違うじゃないか。だから今すぐ一番近い日に開催されるtoeic試験を予約しろ!勉強はそれからだ」という発言を聞き素直に納得した。よし、じゃあ俺もtoeic受験してみようじゃないか!

英語熱が上がった私は1か月後の12月19日に開催されるtoeic試験を申し込んだ。さらに評判のいい単語集を購入し勉強を開始した。1週間ほど単語集で単語を覚えた後、公式問題集を購入し模試を解いてみた。そこそこ点数が取れた私は手応えを感じ、このまま試験当日まで突っ走るかと思われた。

しかし12月に入る頃、思わぬ事態が起きる。違うことがやりたくなったのだ。

振り返ればtoeicの受験もyoutubeに触発されてのものだった。そんな移り変わりが激しい私を魅了したのはyoutubeのゲーム実況投稿とゲーム開発だった。「やってみたい」と思ったのもはとりあえずやってみる性格の私は当然のようにゲーム実況、ゲーム開発を並行して開始した。さらに友達から誘われたapexもやりだした。そうなるとtoeicの勉強など4の次だ。試験前日もゲーム開発をしてtoeicの勉強を全くしなくなっていた。

そして試験当日。35歳にして初めて受験するtoeicだ。そこには全てを諦め、適当にマークをし試験を終えた私の姿があった。専ら考えることといえば残り時間をどう過ごすかということだった。まさに35歳真冬の大冒険が始まろうとしていた…。

 

まずは解答を見直すという選択肢だが、これは論外だ。そもそも見直すことができるのであればこんなに早く終わっていない。矛盾しているようだがこれが現実だ。

例えるなら、おにぎりを作っていて塩ではなく砂糖をふりかけてしまった状況と同じだ。

「あ!おにぎりに塩ではなく間違えて砂糖をかけてしまった!」

この時、今ふりかけたのが塩か砂糖かわざわざ確認する人がいるだろうか?間違いなく砂糖をふりかけてしまった後に、「あれ?これ砂糖だっけ?」とはならないだろう。状況は「美味しいか」「不味いか」の段階に入っており、これは適当に書いた解答が「当たっていたか」「外れていたか」と同様だ。つまり今の私だ。

もしかすると砂糖おにぎりというのも美味しいのかもしれない。試験がマークシート方式である以上、奇跡が起きる可能性はある。ただ、ほぼ間違いなくダメであろう。今は「当たりか」「外れか」の2択なのだ。であれば見直すというのは全く意味がないことなのだ。

ここで私は問題用紙のページをめくるのをやめた。

 

次に問題用紙に落書きをするという選択肢だ。テストが早く終わってしまった学生などはやりがちであろう。

toeicには写真をみてリスニングをする試験がある。上記は公式のサンプル問題から拝借した画像だが、このような写真が何枚も問題用紙に印刷されているのだ。写真というのもは落書きしてよし、大喜利してよし、とさまざまな使い道がある。百聞は一見にしかずとはよく言ったものだ。

しかしtoeicは問題用紙に書き込みをしてはいけないという鉄の掟がある。そういえば試験前の注意で問題用紙に落書きしたら試験会場を追い出されるとか採点されないとか言っていたような気がする。

toeicの問題用紙は表紙に受験番号と名前を記入できるようになっており、回収される。律儀に試験前に監督官が席を見回り、名前を書いていない受験生を注意していたのを目の前でみていた。

これは勝手な予想だが、問題用紙に書き込みをしていないかチェック係がいるのではないか?そうだとすると私の落書きによりチェック係の爆笑を奪えたとしても私の点数が奪われてしまうことになる。それだけは避けたい…。

 

ここで試験官が私のほうをチラチラとみていることに気が付く。鉛筆を持ったままぼーっとしている私は明らかに会場内で浮いていたのだろう。ならば…私は鉛筆を静かに置き、試験を終わったことをそれとなく試験官に伝えた。

 

さて、鉛筆すら奪われた私に残されているのは「仮眠をとる」という選択肢だ。

試験が終わった後は家に帰る。家に着くと子供たちが散らかした部屋を片付け、食器を洗い、子供たちを風呂に入れ、勉強をみるという仕事が待っているだろう。私がいない間子供たちの面倒を見ていた妻の機嫌が悪いことは想像に容易い。となるとここで仮眠をとり、体力を回復しておいたほうがいいだろう。

しかし1つ問題がある。自分では気がついていないが、どうやら寝ている間いびきをかくらしい。先日も妻と岩盤浴に行ったのだが、気がついたら寝ていたようで、妻に起こされた。その理由はいびきがうるさかったからだった。

教室を見渡すとあきらかに雰囲気が違う人たちがいる。前の席の方にいる制服姿の女子高生などはおそらく大学入試のための推薦条件か何かなのだろう。横の大学生っぽい子は就職に必要なのだろうか?点数が何点であっても何かが変わるわけではない私と違い、何かを背負っている人がいるのだ。そんな人たちが一生懸命試験を受けている中、中年男が一番後ろの席でいびきをかいて寝ているのは非常に申し訳ない。指の一本くらい折られても文句は言えないだろう。だめだ!寝るのだけはだめだ!

 

ふと前を見た時だった。目の前に座る白髪混じりの男性の脇の隙間から解答用紙がチラリと見えた。その箇所を私の解答用紙と見比べるとまるでバラバラだった。

これはやらかしてしまったか?なんなら解答を書き直すか…。いや、待てよ前の男だがしきりに頭を抱えたり肘をついて考え込んでいるではないか。よくみると椅子に掛けている使い込まれたネイビーのダウンに穴が空いている。見た目で申し訳ないが、なんとなく英語が得意には見えない。となるとstayではないか?

 

「試験を終了してください」

試験官が呼びかけた。気がついたら時計は17:00になっていた。教室全体の空気が緩んだ。

私は腕組みをしながら問題用紙と解答用紙が回収されるのを見守った。周りに私はどう映っただろう。いや、そんなことはどうでもいい。今はただ試験が終わったことに安堵した。

 

試験料7810円、公式問題集3300円、単語集1000円。toeic童貞を卒業する代償は思ったより高かったかもしれない…。

soon
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  • 1986年生まれのjavaプログラマー。28歳の時に7年働いた販売士からプログラマーに転職をする。常駐先を転々としながら日々生きています。